東大数学科のカリキュラムの紹介

本稿は,東京大学理学部数学科のカリキュラムの紹介です. 執筆者は,同学科の卒業生で,執筆(2009 年 7 月)現在 (同学科の延長的存在である)東京大学大学院数理科学研究科の院生です. 本稿は大学による公式なものではなく,あくまで執筆者の個人的経験に基づくものです.

執筆者の書く文章を読み慣れていない人はご注意ください. たとえば,「?」「たぶん」「たいてい」「と思います」「気がします」といった語句には 「違っても責任は負わないよ」という意味が多かれ少なかれ込められています.


基本的なこと

以下で「わかっている人は」という言い回しをよく使いますが, これに該当する人はたぶん数学科進学者の 2 割にも満たないと思うので, 分不相応に手を抜いて後で痛い目に遭わないようにしましょう.

まず,数学科の科目には「必修科目」「選択必修科目」「選択科目」の 3 種類があります. 卒業するための必要十分条件はたぶん 「必修の単位をすべてとる」 「選択必修科目を N 単位以上とる」 「選択必修科目と選択科目をあわせて N' 単位以上とる」 「理学部 4 学期専門科目であって数学科の科目ではないものを 2 単位以上とる」 のすべてを達成する(かつ,あまりに反社会的な行動をとらない?)ことです. N と N' の具体的な値については便覧でも参照してください.
「選択必修」というタームには 「A_1, ..., A_n の中から m 個(以上)選び,……」という複雑な条件がつきそうな雰囲気がありますが, そのようなものは(数学科では)ありません.あくまで上の条件をみたすことが必要十分です.

2 年から 3 年,3 年から 4 年への進級は無条件です (教養学部を脱するための条件をみたしていれば). 必修の単位を落とした場合は翌学期(7 月ごろ/2 月ごろ?)に追試があります.

「1 コマ」は基本的に 90 分で, (数学科の科目については)基本的に 2 単位です.

4 学期(2 年の冬)

『代数と幾何』『集合と位相』『複素解析学 I 』の各々に講義 2 コマと演習 1 コマがあり, すべて必修です. 講義と講義と演習はおそらく同じ曜日にやるでしょうが, 連続するコマであるとは限りません.僕のときは月曜は 1,2,5 だったりしました. 講義は,わかっている人は出ないで大丈夫です. 演習は,「講義の方の試験が十分よければ単位を与える」人もいるかもしれませんが, そうでない場合には正の回数出席・発表することが必要となるでしょう.

『代数と幾何』は線形代数です. よくネタにされますが代数幾何ではありません. たぶん「線形代数の世界」の内容だと思っていれば大きな問題はないと思います (世界の著者が担当である限り).

『集合と位相』は名前から想像されるとおり, 集合論の基本的なことと 位相空間論の基本的なことを学びます. 某先生の集合と位相演習は数学科に進学した人が受ける最初の洗礼だとか言われていましたが, 2009 年はこの先生は担当されないようです.

『複素解析学 I 』では複素解析の基本的なことを学びます. 正則関数の定義ぐらいから入って, たぶん留数解析ぐらいまで.

あと理学部の 4 学期科目で,数学科のではないものをひとつ(以上)とることが必要です. シラバスを見ると数学科の「選択科目」とそれ以外に分類されていたりしますが, 実のところこれには「おススメ」程度の意味しかないようです. 「選択科目」でもそれ以外でも問題ありません.
ここは,年によって履修できる(i.e. 数学科の必修とかぶらない)科目に差があります. 『情報数学』がとれるならば,とても簡単らしいです. 自分の年は『情報数学』はとれない形になっていて, 『解析力学・量子力学』が(週 2 コマであるにもかかわらず)人気だった気がします. 自分は『アルゴリズムとデータ構造』でとりましたが. もちろん,ここに挙げた以外にもいろいろな科目があります.

数学科の必修の 3 つは 3 月上旬に試験が行われるのが通例です. 他は科目によります(詳しくは知りません).

5 学期(3 年の冬)

『解析学 IV 』(速度論,ルベーグ積分の基礎), 『代数学 I 』(群と環の基礎), 『幾何学 I 』(多様体の基礎), 『複素解析学 II 』(基礎じゃない複素解析. Riemann の写像定理,Picard の定理,楕円関数,などなど) の 4 科目がありそれぞれに講義 1.5 コマと演習 1 コマがあります. 『代数学 I/同演習』は木曜の 13 時から, ほか 3 つが月火水の 10 時からであることがここ数年の流れのようです.
やはり,わかっている人は講義は出なくてよいでしょう. ただし『複素解析学 II』の内容をすべて理解している人はかなり稀少だと思います.
たいてい 9 月に試験ですが,あくまでたいていです.
(そういえば,解析学の I-III ってどこにあたるんでしょうね? 教養の数学 I とか数理科学 N とかですか?)

この他に, 数値計算を扱う『計算数理 I 』, 情報棟で実際に数値計算する『計算数理演習』, 数理の贅沢な計算機環境でいろいろやる『計算数学 I 』 が例年金曜日に開講されます. 自分のときは,『計算数理 I 』は 7 月に試験とレポート,『計算数理演習』はレポート,『計算数学 I 』は出席とレポートでした.

教職がほしいひとは木曜 1 限に本郷で『基礎演習』か何かがあるんだった気がしますが, とってないので詳しくは知りません.

必修の 4 つ(の講義の方)はたいてい 9 月の第 2 週ぐらいに試験が行われます. 演習は平常点が主だと思いますが, 先生によっては試験がよければいいかもしれません.

6 学期(3 年の冬)

必修が存在しません.

その一方で, 『代数学 II 』(環上の加群とか), 『代数学 III 』(Galois 理論), 『幾何学 II 』(基本群・ホモロジー群), 『幾何学 III 』(微分形式:de Rham cohomology ぐらいまで), 『解析学 V 』(微分方程式), 『解析学 VI 』(Fourier 解析,超関数), 『確率統計学 I 』(確率統計の基礎), 『現象数理 I 』(知らない), 『計算数学 II 』(数理のぜいたくな計算機環境で各自好きなプロジェクトを進める), など(?)多くの科目が開講され, これらの多くが選択必修科目なので, この学期で選択必修科目/選択科目に関する卒業条件を満足してしまうのが よくあるケースです. たいてい学期末(1-2 月)に試験ですが,レポートを出す科目もあります.

演習が 3 つあって, 『代数学特別演習 II 』は『代数学 II 』に, 『幾何学特別演習 II 』は『幾何学 II 』に, 『解析学特別演習 II 』は『解析学 V 』と『解析学 VI 』に, それぞれ対応しています.自分の年は解析のは隔週でやってました. ちなみに,たしか演習が付随している講義は 1.5 コマで,そうでない講義は 1 コマです.

『数学輪講』という科目があります. これは,学期の間(学生だけで)セミナーを行い, 学期末に試問を受けて無事通ると 単位が 4 つも来るというおいしい科目です.
7 月ごろ本のリストが配布されるので, 8-9 月に班のメンバーとやる本を書いて提出します(この際同じ本をやる班が複数あっても構いません). 学期中セミナー室を予約する権利が与えられます.
セミナーをちゃんとやってるかの確認は(試問を除いて)全くないです.
試問の内容は担当教員によりけっこう異なり,人によっては 全員を一度に集めて各人に「何が面白かったですか」的なことを聞く程度だったりしますが, 厳しい場合はひとりずつ別室に呼び出していろいろ問題を出したりすることもあるようです. ちなみに試問をする教員が判明するのは学期末なので,ここを基準に本を選ぶことはできません……とはいえ リストは毎年似たようなものなので, 前年の試問の掲示を確認しておけばけっこう予想はできるかも. あるいは教員の専門と本の内容から推測.

7-8 学期(4 年)

科目は 3 種類あって, 「数学講究 XA/数学特別講究」と 「数学講究 XB」と 「それ以外」です.

「数学講究 XA」(夏)/「数学特別講究」(冬)はいわゆるセミナーです. たまに勘違いしている人がいますがこれは必修です. 週 1 で担当教員の前で話すことになります. ただし同じゼミに複数人いる場合は発表頻度はこれより低くなります(場合によるかも).
テキスト一覧は 1 月/ 7 月に掲示され(輪講と違って教員名との対で), 2 月/8 月のある日までに第 3 希望までを提出し しばらくすると結果が掲示されます. 希望する先生のところには面談に行くことが推奨されています(第 1 希望では必須なんだっけ?).
なお教員によって夏/冬学期のみだったり通年での開講だったりします.
面談では「リストに載っている本はすでに読んだ/興味がないので別の本を読みたいです」 のような相談には割と乗ってくれます(人にもよります). もっとも 1 人の先生に多くの学生が殺到した場合には全員の希望をみたすのは難しいかもしれませんが (多くの先生は「4 年のセミナー」を週 1 回しか行わないため (たまに複数やってくれるエライ先生もいますが)).
これを履修するためには 4 学期の必修 3 つすべてと 5 学期の必修 4 つのうち 3 つ以上の 単位を取得していることが必要です.まあまともにやれば取得してるでしょ.

「数学講究 XB」はオムニバス形式の講義で,必修です. (自分の年には)火・水の 14:40-16:40 という微妙な時間に開講されていました(60 分×2 回). ただし例年開講が 5 月の連休明けだったり,また日・回によって休みだったりします. 出席と,学期末に 2 人を選んで出すレポートで単位・成績がつきます.

それ以外. 多くが院と共通の科目になっています. 内容も難易度も科目・年・人によってさまざま. 3 年の科目の続き的なものもあれば, 学部生など眼中にない(もしかしたら院生も?)ものも. 試験があるものは少なく,たいていレポート.
集中講義(基本的に,ある週の月火水木金の 14:40-16:40)がたまにありますが, 院生しか履修できないものも多いです.
すでに十分な単位数を取得している人は,この辺の科目を無視しても構いません (それが本人のためになるかは別として).

院試

については本稿では述べません. 機会があれば別稿で書くかも.

修士課程

(ここ以降は「理学部数学科」ではありません.)

卒業のための必要十分条件はおおよそ 「セミナー(:必修)の単位をとる」 「セミナー以外(i.e. 必修でない科目)のうち選択必修とされている単位を M' 個とる」 「セミナー以外(i.e. 必修でない科目)の単位を M 個とる」 「修論を書きそれが認められる」です.M, M' は正の整数です.

セミナーはセミナーです. やり方は先生によってさまざまで, 学生 1 人ごとに別々のセミナーをやる場合も, 学年ごとにまとめる場合も, 修士の学生をすべてまとめてやる場合も, 発表が週 1 人である場合もそうでない場合も, 学期中のみ行う場合も, 夏休み等にも行う場合もあります (以上が排反ではないことに注意). この辺がどうかはその先生の抱える学生数に影響されます(むろんそれだけではないが).

セミナー以外の科目は多くが学部 4 年と共通です. というわけで 4 年の項を参照してください.

修論について:誰か書き方教えてください.

博士課程

修士課程のを適当に書き換えるとよさそうなイメージ. むろん,D 論として認められるための条件は修論のそれより厳しい.

それ以降

僕が知りたいよ!


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